in陰扉door_novel_3




前略
お母様、嬉しい知らせです。
私の通っている塾に、佐々木伸夫という男子高校生がおります。
この前塾へ行ったとき、私は見たのです。
彼が、あの方が表紙の漫画雑誌を読んでいるところを。
伸夫さんに声をかけようかと思いました。
しかし突然女性の方から声をかけるなんてみっともないことですから、私は手紙を書いて渡しました。
手紙は、授業中に書きました。
どうか美津子を叱らないで下さい。
私は、あの方のことで頭が一杯だったのです。
お母様なら、分かってくださると信じています。
手紙を渡した時、伸夫さんの周りにいた男子高校生たちがヒューっと口笛を鳴らしました。
どうやら、北風ごっこが流行っているご様子。
彼は顔を真っ赤にして喜んで下さいました。
すぐに教室を出ていらしたのも、早く中身が読みたかったからでしょう。
私にはその気持ちがよく分かります。
お手紙というのは、人を幸せにする力があるのです。
お母様も、私の手紙を待っていらっしゃる時、同じような気持ちなのでしょうか。
そうだとしたら、美津子は大変嬉しく思います。

ところでお母様、先日塾の試験の成績が返されました。
私は恋に現をぬかすばかりに、順位をひとつ落としてしまいました。
お母様が身近にいらっしゃったら、美津子をしかっておられることでしょう。
当然のことです。

恋というのは、人をドキマギさせる薬だけではなく、生活を狂わせる毒でもある。
私はお母様のこの言葉を忘れるところでした。
これからはこの事を反省し、成績を落とさず、かつ、あの方のことも追いかけてゆきたいと思います。

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