in陰扉door_novel_1

第二章 平穏、変更_4




久しぶりの高校はそれなりに楽しかった。
その感想で今日の学校生活は終わらせるつもりだったのだ。
しかし何故、私はこんなことになっているのか。

「久しぶりね、天音さん」
そう言ったのは、私によく戯れを仕掛けてくる女子高生、反町有子である。
その周りにいるのは彼女の取り巻き、もとい仲良しさんである、松沢綾香と枝川美緒である。
名前からも分かるように、反町有子はこの学校の反町高校の理事長の娘だ。
頭は空だが、コネでこの学校に入学した。
松沢綾香と枝川美緒は頭は悪くないが、将来のために反町有子と仲を良く保っているのだろう。
私が今いる場所は、放課後の校舎裏。
好きな異性への告白、または気に入らない人物への呼び出しに使われることが多い。
「両親、お亡くなりになったんですってね。可哀想に。もう体は売ったの?」
反町有子も、その情報は掴んでいるらしい。
あらかじめ言っておくが、私は温和な性格ではない。
むしろとても怒りっぽい性質だといっていい。
怒ると口調が荒っぽくなるし、キれたら何をするか自分でも分からない。
よく自らをキれやすい人として周りにアピールする人がいるが、私の場合それは事実だ。
「どこから聞いたの?お父様?」
私はにやりと笑って聞いた。
彼女は答えない。
無駄な時間だとはいえ、やられっぱなしというのもいい気がしない。
本当なら色々強くいってやりたいところだが、反町有子は理事長の娘だ。
下手なことをいうと何をされるか分からない。
私は微笑むだけだ。
これでも十分な挑発になると思うが。
「ムカツク顔。ねえ、綾香、美緒」
「そうですね」
二人は声をそろえていうが、感情がこもっていないのがよく分かる。
美緒なんかは、チラチラと付けている時計を気にしている。
「ねえ、もういいでしょ?こんなところに私を呼び出して何の得があるんだってーの」
私は反町有子を押しのけて、帰ろうとした。
「ホントに時間の無駄」
それが反町有子を怒らせてしまったらしい。

「待ちなさいよ!」
「あっ・・・」
反町有子は帰ろうとする私の肩をつかんだ。
私はバランスを崩す。
その力が意外にも強く、私は尻餅をついた。
そしてその調子に
「ひっ」
「有子、ちゃん・・・・・・・」
校舎に引っかかっている針金、恐らく鉄筋の太い針金が老朽化していた校舎からは飛び出ていた。
私は転んだ弾みに、その針金に腕を引っ掛けてしまったのだ。
腕はかなり深くまで傷つき、血が溢れるように流れた。
(左手で、良かった・・・)
ぼたぼたぼたと地面に血の水溜りがどんどん広がってゆく。
「・・・流石に、これはやりすぎじゃない?反町有子さん」
「あ、わ、私、わざとじゃ」
「うん、分かってるよ」
だけど、私はこの傷を誰かのせいにしないと気が済まないんだ。
いくら左手だとはいえ、この傷で何か物を書いたり、両手を使うデスクワークは無理だろう。
剣の世話だって、難しくなる。
家を追い出されてしまうかもしれない。
「い、行こう有子ちゃん」
松沢綾香と枝川美緒は反町有子を連れて校舎裏から逃げようとした。
しかし、それは不可能だった。

「てめぇら、逃げられると思ってんじゃあ、ねぇよな?」
そこに立っていたのは、木下くんでもなく、他のクラスメートでもなかった。

「な、なんで」
彼は慌てた様子もなく、だが急いで私の元に来た。
彼は自分のワイシャツを破いて私の腕に巻いた。
「くっ」
強く圧迫されて痛い。
でも血を止めるためだと分かっているから、我慢した。
青年は言う。
「おい、反町、いくら理事長の娘、いくらわざとではないとはいえ・・・責任はとらなきゃいけねぇよ?」
松沢綾香と枝川美緒はそそくさと去ろうとするが、彼女らにも青年は言った。
「お前らも、見てるだけでも止めなかった責任は重いぜ?」
彼女らは泣きそうな顔をして、反町有子とその場を後にした。
「おい、大丈夫か。今救急車呼ぶからな」
「だ、大丈夫に見えっかよぉ」
「うん、見えねぇ」
彼は私を抱え上げた。
お姫様抱っこというやつだが、この際は気にしない。
「な、剣。あんた教師だったんだね」
彼はにっこり笑った。
もしくはにやり。

「神宮寺剣。お前の担任だぜ。宜しく」

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