in陰扉door_novel_1

第二章 平穏、変更_3




お昼休みは、私はいつも一人でお弁当を食べている。
参考書を開きながらだったり、次の授業の予習だったり、やることには事欠かない。
そして食べ終わると、私は隠れながらコンピューター室へ向かい、ちょっとしたデスクワークのその日のノルマを達成する。
今日は一週間分溜まっているので、お弁当は自分の分は持って来なかった。
対する木下くんは、仲の良い友達と一緒に机を囲んで談笑しながら食べている。
食べ終わった後も、お喋りは続くのだと思う。
その点は、見たことがないので分からない。
しかし今日は違った。
四時間目のチャイムが鳴り終わるとすぐ、彼は私の手を取って無理やり教室の外へと連れ出した。
木下くんのことだから、何かあるなと私は思っていたので、そんなに慌てなかった。
朝あんな話を聞いただけに、彼は私を心配するだろうと思った。
連れて行かれたのは、学校の屋上だった。
屋上といっても、鍵がかかっているので屋上に繋がるドアの前だ。
階段を上がったところにある、狭いスペース。
よって人は来ないので、秘密の話をするには最適である。
階段は響くので、声の大きさには注意しないと下手したらただ漏れ、という場合もあるが。
「それで、大丈夫なの?」
私は頷く。
「さっき言ったじゃん。大丈夫だよ」
「でも・・・借金に追われてるんでしょ?住む家とか、生活とか・・・」
「大丈夫だって。大体追われてるって、私に支払い義務はないんだし」
私は笑ってみせるが、木下くんの顔は晴れない。
まだ心配そうに私を見つめている。
・・・どの位そうしていただろうか。
「俺んちに来る?」
「・・・」
(なんでそーなるの?)
「うち、昔から猫とか拾ってきても何もいわれなかったし」
(私は猫か)
「多分天音ちゃんちっちゃいから大丈夫だと思う」
(物理的な問題?)
「それに俺、天音ちゃんのこと好きだし。多分家族も気に入るよ。だって、俺と同じ血が流れているんだもん」
「・・・・・・・」
「あ、勿論恋愛感情じゃないよ?念のため」
「いやそれは知ってんだけどさ・・・ごめん。私木下くんの認識改めなくちゃいけないかもしんない」
私は彼を頭の回転の速い人だと思っていた。
確かにそれはそうだ。
けれど
(こいつ、馬鹿?)
これを本気で言っているのだとしたら、木下くんは馬鹿決定。
それとも頭が良い、天才だからこそおかしいのかもしれない。
そういえば、彼が勉強しているところなど見たことが無い。
「木下くん、心配してくれるのは嬉しいけど、本当に大丈夫だよ」
「天音ちゃん、遠慮しなくてもいいよ。それとも照れてるんだったら、違うからね。俺はホントに」
「だから大丈夫って言ってんだろうがぁ!!!!」
私は木下くんの坊主頭をぽこんと叩いた。
正確にはそんな可愛らしい音では無かったのだが。
痛そうに頭をさそる木下くん。
私は心配してくれた木下くんにぶつのは悪かったと思って、頭を撫でてやった。
「・・・・・ごめん。痛かったよね。後悔」
「うん。・・・天音ちゃんって、女王様向いてるよ。飴と鞭の使い分けが絶妙」
私は今度こそ、ぽこんと叩いてやった。
「そーだよねぇ、木下くんの本命は、松岡くんだもんねぇ」
木下くんは顔を真っ赤にしてこっちを向いた。
そう、彼は隣のクラスの松岡大輔のことが好きなのである。
松岡大輔とは言うまでもなく、男子である。
そしてつまり木下くんは言うまでもなく、同姓の相手に恋しているのである。
「おまっ、そそそれ、どこで」
「だいじょーぶ、気付いているのは私だけだと思うよ。勿論私は誰にも言わない。だけど、そんなに赤くなっちゃうのは問題だね。冗談で言われて赤くなったら、周りドン引きだもんね」
「お前ぇ、言うなよそれを」
「私は応援してるよ」
「・・・・・・さんきゅー」
木下くんはにっこり笑った。
それから、お弁当を持ってきていない私に彼は驚き、半分お弁当を貰って食べた。
自分で作っているという。
味はかなり美味しくって、おにぎりの形など、お弁当のデザインも凝っていた。
「良い嫁さんになるよ」
と言って赤くなるようじゃあ、まだまだ彼の恋は実らないと思う。
木下くんには私の生活の話はうやむやにすることができた。
恐らく彼のことだから後で気付いて聞いてくると思うけれど、その時は「親戚の家で暮らしている」と答えるつもりだ。
けれど出来ることなら今後もこうやって煙に巻いて、その話には触れないようにしたい。
友人には、嘘を吐きたくなかった。
 
久しぶりのお昼休みは楽しかった。
木下くんは相変わらず面白いし、優しい。
コンピューター室に行かずお昼休みは終わってしまったけれど、明日数日分のノルマを達成すればいいや。
なんて久しぶりの妥協をした。

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