in陰扉door_novel_1

第二章 平穏、変更_2




(痛た・・・・・・・)
少し湿った制服を着て、私は校門に立っていた。
昨日剣に蹴りを放った後、私は洗面所のドアにそのまま足をぶつけ、痛めてしまった。
出血が意外と多く、剣は手当てをしてくれたものの、ずっと不機嫌で、その後私はやらなくてもいい仕事を押し付けられた。
お陰で今日は寝不足である。
(蹴りはやりすぎだったかもしんないけどさ、でも何も言わずに入ってくる方が悪いよな!もしまだ着替え中だったらどうすんだっつうの)
剣が赤面して「ご、ごめん」とか言ってドアを閉める様子を想像してみたが、その顔は剣ではなく明らかに別人だった。
(あり得ないよなあ)
勿論そんな行動をしてほしかったわけではない。
一番理想なのは、無表情で謝ってドアを閉めること。
そもそも、何も言わずにドアを開けないことである。
(そこは・・・人間として?いや男として)
剣にはデリカシーがない。
私は、靴箱を開けて上履きを取り出す。
明らかに、一週間前より汚くなっていた。
(誰かが何かあって使ったのか、それとも故意に・・・・・・)
明らかに後者だろうと思う。
私は、クラスでも、学校自体でも、あまり好かれている存在ではなかった。
それでも、他の人間には害は無いはずだが、気に入らない奴がいるようである。
傷つけようしているのかは知らないが、正直付き合うのも時間の無駄であり、効果はない。
上履きに付けられたのは、土だろうか。
ただでさえ古い靴なのに、これでは早々に買い換え時が来てしまう。
上履きを履くと、チクリと鋭い痛みが走った。
「わ、古典的」
私は笑う。
引っかかる私も私だが、今時こんなトラップを仕掛ける人がいるのか。
上履きの中に、画鋲が入っているようだ。
指を傷つけないように注意して取り出す。
仕掛けた人は大体の目星が付いている。
そいつの上履きに入れてやろうかとも思うが、仕返しが目に見えているのでやめておく。

国立の高校に入学したとき、まさかいじめなどという餓鬼臭いことをやる人がいるなんて思わなかった。
正確に言うと、イジメという言葉は間違っている。
いじめは、その対象が傷ついたり、何らかの行為で精神的に弱者に陥るものだと思う。
私はされている行為に対し、迷惑だとは思うが傷ついてはいない。
何かに例えるならそう、虻に刺されるようなもの。
中学生までは、公立の学校だったし、内心馬鹿だなあと思いつつも、余りにひどいときは相手になっていたりした。
結構な時間を割かれたことを覚えている。
上手く立ち回れなかったときは、担任の先生に相談しろと強制されたり、本当に無駄な時間だった。
お金のこともあるが、国立に通う人間は、もっと違うと思っていた。
明らかに、集中力を向ける方向を間違えているのだと思う。
勉強しすぎて、そういう人の方がノイローゼなのかもしれない。
ある意味で、彼ら彼女らも被害者なのかも。
何の?
いや外れ者、弱いものを排除しようとするのは人間の生まれ持った性質だ。
人間の体が、体外からのばい菌をやっつけようとするように。
しかしばい菌は害になるけれど、私はいたって害にはならないと思う。
害といったら、教室中の酸素の量を消費する位だろう。
でも空気の入れ替えは窓側の私がやっているのだから、プラスとマイナスではプラスの方が多いはず。
論理を理解できない、もしくは論理を理解しても倫理を理解できない。
もしくは両方とも理解しても周りの環境により間違えてしまう。
これらが人間である。
(私に迷惑をかけるのは、誰だろう)
考えながら教室に向かった。


久しぶりに学校に来たので、クラスメートは驚いたようだった。
自分の噂をする声がところどころから聞こえる。
私は無視し、自分の席に着くと、問題集を取り出した。
授業の予習のストックは大分あるが、朝礼まで自習しようと思ったのだ。
「おお、天音ちゃん。久しぶりだね。ど?調子は?」
私に声をかけてきたのは、唯一このクラスで親しいと呼べる人間である、木下雄二郎だ。
彼は坊主頭でおまけにその色は真っ赤だ。
制服のシャツは着崩し、中に着ている派手な柄のティーシャツを覗かせている。
胸には髑髏が彫ってあるドッグタグのようなアクセサリーをぶら下げていた。
指や腕にも、同じ類のものを付けているようだ。
ぱっと見は不良だが、彼は頭がいい。
この学年で一番成績がいいのは特待生である私だが、その次が彼だ。
勉強バカではなく、頭の回転も速いように思える。
その点は、羨ましい。
この学校は偏差値こそ高いものの、成績をキープできれば校則は自由だ。
成績が悪い者は、服装の乱れや生活習慣を注意される。
「久しぶり。木下くん。元気じゃない、けど大丈夫だよ」
「色々また噂流れてんぞ」
「へえ、どんな?」
「そうだねぇ、両親が死んで借金取りに追われてるとか。アホらしいよね、どこのドラマかっての」
「・・・・・・・」
人の口に門は立てられない。
話が漏れたのは、教師か、近所の奴らか、それともわざわざ調べたとか。
「本当にそうだね。ドラマみたいだった」
「え、まさか天音ちゃん」
「木下くん、聞きたいんだったら教室の外行こう。話してあげるよ」
木下くんは驚いたようだった。
当然である。
私だって木下くんにそんな噂がたったって信じない。
少し黙った後、木下くんは
「いや、いい」
と言った。
多分私に気を使ってくれたのだと思う。
その時、ベルが鳴って担任が入ってきて、朝礼が始まった。

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