in陰扉door_novel_1

第一章 おいてけぼりの




私は必死に夜の街を駆けた。
輝くネオン
渦巻く欲望
今までの私とは、全く縁のなかったモノ、物、者
体を簡単に売ってお小遣いを稼ぐ同級生を軽蔑していた。
けれど、そうでもしないと今の私は生きてゆけない。
私の目の前から消えた家族、主に父さんは多額の借金を残していた。
気軽にお金を借りることが出来る、しかし一度嵌ったら抜けられない、泥沼のようなところで。
テレビの中での出来事にしか思えない。
家族の今の現状も、借金も。
どこかに隠しカメラでも設置されているのではとすら思う。
コントのような黒尽くめの格好の男たちが、私を売ろうと追いかけてくる。
恐らく捕まったら終わりなのは確かだ。
本当なら、借金をしたのは私の父親であり、私に支払い義務はない。
しかし奴らにそんな言い分は通用しないだろう。
だから私は走る。
逃げる逃げる。
男たちから?それとも現実から?
もう、そんな自問自答さえも曖昧だ。
喧騒の中にいるはずなのに、自分の息遣いがやけに大きく聞こえた。


ドサドサッ
私は気がつくと、ベッドに押し倒されていた。
反抗する隙がなかった。
そんな技ばかり身に着けて・・・・・・こういう奴は、きっと会社では冴えない、後輩に抜かされるようなダサイやつなんだ、きっと。
そう私は軽蔑する。
ここは、ホテルの一室だった。 ラブホテルなんて名前の癖に、ここで愛を持って事に及んでいる人は恐らく少数だろう。
男が馬乗りになった。
ベッドが軋む。
白いシーツは、男の精液がまとわりついているようで気持ち悪かった。
そして、目の前の男はもっと気持ち悪い。
こいつは、繁華街をうろついている私にさっき声をかけて来た。
指を二本立てて、「これでどう?」なんて言いながら、私をこの部屋に連れ込んだ。
中年の、汗臭いオッサンだ。
「ま、待って・・・・・・!!」
そう言うと男はニヤニヤしてこっちを見て、「なんだい?」と言った。
臭い息がかかる。
最低。
「シャワー・・・・・・浴びてからにしませんか?私、さっき走ったし・・・先入っていいですから・・・・・・」
私はそう息をよけながら必死に言った。
すると、男は私から離れて、隣接するバスルームへと行った。
了解、やらいいよ、やらぶつぶつ呟きながら。
「何言ってるかわかんねぇよ、糞ヤローが」
私は聞こえないように呟いて、ベッドから降りる。
私は、体を売る気はなかった。
軽蔑している同級生と同類になりたくない。
あんな男に性欲を満たす道具になりたくない。

(どんなに惨めな状況になっても、プライドだけは捨てない・・・・・・!!!!)

水の流れる音を確認した後、私は男が脱ぎ捨てたスーツを探る。
すると、いとも簡単に財布が見つかった。
一万円札が四枚と、数枚のキャッシュカード。
これだけあれば、数日はネットカフェ等で過ごせる。
私が部屋から出ようとした、その時だった。


「何、逃げようとしてんのかい?」
塗れた手が、私の肩に置かれた。
慌てて振り向くと、男が全裸で立っていた。
「なっ・・・」
「怪しいな、なんて思ってたら、やっぱりね。オジサン、傷ついちゃうな」
私は男を睨んだ。
しかし、それに臆することもなく、男は私の方へと近付く。
ドアは、私の後ろだ。
ここに入る前に、ドアは確認した。
内側からは押すタイプだったはず。
(上手くいけば・・・・・・)
「さあ、お嬢ちゃん、お仕置きだ」
男の肩が触れる直前、私はドアを開けて廊下へと飛び出した。
男は全裸で出られない。
男の慌てた顔が、ドアが閉じる前に垣間見れた。
私はにやっと笑う。
「ざまぁみやがれ!!」
私は廊下を必死で走る。
今日はよく走るなあ、なんて思っていたとき、さっきの部屋から、男が出てきた。
「げっ!もう!?」
振り返ると、男はパンツ一枚だ。
そんなに私を捕まえたいのか。
それとも財布が惜しいのか。
(いずれにしろ、醜いヤロー!!)
捕まったら、終わり。
それはこの男でも同じだ。
こんな犬の糞みたいな男に抱かれたとき、多分私は死ぬだろう。
男は粗悪な肉が沢山ついているくせに、足が意外と速かった。
一方の私は、足が縺れて走れない。
よく夢で、現実のように走れないのと一緒だ。
振り向くと、男はすぐそこを走っている。
必死の形相。
(気持ち悪い・・・・・・捕まりたくない!捕まりたくない!!!!)

「いやあああああっ!!!!」

誰か!と初めて他人に救いを求めたとき、近くのドアから手が伸びて、私を部屋へと引っ張った。
男の手だ。
私が部屋に入った直後、ドアが閉められる。
私を追いかけていた男は、ドアの外で、開けろ、とか糞っとか叫んでいた。
糞はお前だ、なんて思ったら、目の前の男と目が合った。
少年とまでは行かなかったけれど、比較的若い、青年であった。
私とは、十歳も離れていないだろう。
黒髪は肩まで伸びて、顔は整ったパーツが揃っている。
切れ長の目が私を見つめていた。
(って、何でこんなに詳しく見てんだよっ)
やはり私も女だからだろうか。

「助けてやろうか?」

「え?」
「一緒に逃げてやろうか?」

そう言って青年は後ろの窓を指差す。
私が入った部屋には着いていなかったけれど、この部屋には窓があるらしい。
ラブホテルにいるということは相手がいるはず。
彼女はいいの? 
とか
貴方は誰?
とか
そんな言葉は必要なかった。
ただ私は

「はい」

それだけ呟けばよかった。

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