in陰扉door_novel_1

第五章 愛と欲_1 




夜が明けると、私は小屋を出て助けを呼びに行った。
十数分走ると地図で見たとおりお店らしきものが立ち並んだ開けた場所に着き、そこには学校の先生が何人か私たちを探し回っていたようだ。
剣と、念のため私も救急車で運ばれて、私の修学旅行はそこで終了となった。
木下くんや松岡くんと遊べなかったのは残念だけれど、彼らにとってはそっちの方が都合が良かったのかな、なんて私は笑った。
それよりも、気がかりなのは剣のことだ。
昨日の夜、思わずキスをしてしまった。
それは私が剣への気持ちに気付いたからだし、私はいい加減な気持ちでしたわけじゃない。
だから尚更、剣への思いは今私の中で大きく膨らんでいる。
思いといっても、甘い気持ちじゃない。
怒りだ。
あの日から一週間、剣は私のことを一切無視している。
ご飯を作ったら文句ひとつ言わないで食べるし、自分の仕事も手伝えなんて言わない。

(・・・・・・・・・・)

(それってもしかして、いいことなんじゃないか?)

いやいやいや。
それ以外にも、雑談だったり、声をかけることさえしないのだ。
照れたりするんだったらむしろ私は喜ぶべきなのだろうけど、どうもそういう感じじゃない。
第一、剣らしくない。
多分。
嫌われた。
いまのところ、それが一番しっくりくる。
どうしてかは分からないけれど、多分あのキスから私たちの関係は変わってしまった。

「つーか・・・嫌なら抵抗すりゃいいだろうが!!!!

何!?受け入れましたーーみたいに思うでしょーが!!こっちは!!

それとも!?アレか!?新手の!?放置プレイ!?みたいな!?

こっちの反応を心底楽しんでんのか!?アア!?心の奥で笑ってんのか!?

そうだったらこころから性格悪いかんな!?てめぇ!!」

と言う心の気持ちを。

言った。
言ってしまった。
もしも私が可愛らしい乙女だったらそんなこと言えずに心に留めたままご傷心なんだろうけど、私は残念ながら違う。
これでも身ひとつで生きていこうとした女だ。
未遂だったけど。
乙女なんて、性に合わない。
すると彼は、こんなことを言い出した。

「今考えるとさあ、年頃の娘と、しかもその担任が同じ屋根の下って問題だよな」
そうだ、そういや剣、教師だったわ。
「だから、とっといたぜ。お前のアパート」
「・・・どういうこと?」
「お前にしては物分り悪ぃな。別々に住むってことだよ。金はきちんと払ってやる」
「・・・・・・」
「もちろん、最初の契約書は無しな。安心しな。これでお前は晴れて自由の身ってやつだ」
馬鹿。
馬鹿。剣。
ばっかじゃないの?
何言ってんだよ、今更。
言いたいことは沢山あったけど、私は取り敢えず
「ふっっっざけんな!!!!」
そう言って、ついでに剣の股間も蹴り上げて、自分の部屋、もといロフトへと駆け上がった。
「〜〜〜っ・・・・・・」
ロフトとリビングは繋がっている。
剣の声にならないうめき声を聞きながら、私は悔しくて、音を立てず泣いた。


次の日、泣きはらした目で学校へ行くとすぐに、木下&松岡ペアに声をかけられた。
「なあ、天音ちゃん。ちょっと気になることがあるんだけど・・・」
話の内容は、私の剣の関係についてだった。
「・・・別に何もないよ」
その通りだ。
同じ家に住んでいるとはいえ、関係は生徒と教師。
それ以上でもそれ以下でもない。
そのことが今の私にはとても悲しい。
「そうなんだ。ならいいんだけどさ」
「でも、修学旅行のとき天音ちゃんのこと、下の名前で・・・」
「馬鹿、松岡」
木下くんはそう松岡くんを制した。
「・・・本当に何もないよ?」
「何もないってことはないでしょ!?だって普通教師が」
「天音ちゃんが話したくないんだったらいいんだ。ただね、もしそれが天音ちゃんが嫌がることなら、俺たちに言って。絶対」 どうやら彼らは、私が剣に何かされているのはと思ったらしい。
心配してくれているんだ。
私は嬉しくなって、あくまでも嬉しくなって、泣いてしまう。
「っ!天音ちゃん!!」
「違う、木下くん、松岡くん」
剣が私に何かするわけないじゃない。
剣は行き場のない餓鬼を拾って家に置いてしまう位優しいのに。
命を掛けて崖から落ちそうになった餓鬼を助けようとする位優しいのに。
私が、高校生っていう餓鬼だから、剣は私を無視するのだろうか。
餓鬼だからって、軽くあしらおうとしないところが剣らしい。
でも、だとしても、放っておかれればおかれるほど、求めたくなるって分からないのかな。
冷たく、一発断ってくれた方が楽なのに。
「私は、私はね」
木下くんたちはうん、うんと頷くように私の言葉を待っている。

(剣のことが好きなんだよ)

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