in陰扉door_novel_1

第四章 欲と罪_1




まだ恋と愛の違いすら知らない頃に女を抱いたせいで、俺の恋愛論は少し狂ってしまったようだ。
(正確には抱いたってよりも抱かれたって方が正しいのだけど、ここは俺のプライドのために抱いたとしておく)
相手のことをどうしようもなく好きになって、これ以上人を愛することはないだろう。
とそう思っても、結局はその先には愛とやらと引き換えに得られる欲があるだけだと、知ってしまった。
愛とは、異性を引き合わせるためのきっかけに過ぎない。
出会い、セックスをし、そしたら彼女への想いは消えて信頼だけが残る。
それが、俺が今までに数多く経験してきた結果だ。
ある一人の女を除いて。


「悪いけど、俺、女いるから」
手紙を差し出してきた彼女をそう俺は冷たくあしらった。
彼女はクラスでも一番可愛く、異性から人気がある女の子だった。
確かに可愛い。
いつもピンクのワンピースを着て、同じくピンクのリボンをつけて、とても『女の子』らしかった。
けれど俺はそんな『女の子』らしい彼女に魅力を感じることが出来なかった。
俺は『女の子』らしいより、これ以上ない『女』らしい女を知っていたからだ。
その女はどこの女より、女の子より魅力的だったし、そのころの俺は彼女の魅力に虜だった。
クラスメートが知ったら年増好きってからかわれたかもしれないけれど、俺は誰にもそのことは言わなかった。
俺たちは愛し合っていた。
秘密の恋だったのだ。
だから誰にも話すわけにはいかなかった。
俺に断られた彼女は言った。
「じゃあ誰が好きなの!?隣のクラスの山口さん?それとも正子ちゃん!?」
だからそんなんじゃないんだって。
俺がすきな女は小学生なんて餓鬼じゃなくて、大人の女なんだって。
そうはいわなかったけれど、俺が黙っているのを肯定と受け取ったらしく、彼女は更に問いただしてきた。
「どっち!?正子ちゃんでしょ!?」
その剣幕が今にもその正子ちゃんのところへ殴りこみに行きそうだったので、俺は出来るだけ優しくするよう努めて、言った。
「違うよ。山口さんでもない。学校の中でいうなら、俺は君が一番好きだ」
そこでじゃあ付き合ってという彼女の思考回路が分からない。
山口さんも正子ちゃんも好きじゃないならいいじゃないという平べったい思考回路が。
何でそうなるんだよ。
これだから餓鬼は嫌なんだ。
理由つけて断るのも面倒だったので、結局彼女と俺は付き合うことになってしまった。

「お帰り、剣」
家に着くと、彼女が裸で煙草をふかして俺を出迎えた。
「服位着ろよな」
勿論これは照れ隠しだ。
彼女の浅黒い肌に、赤い下着はよく映える。
吹かしている煙草の火にも、彼女の血にも負けない赤だ。
「いいじゃなぁい。剣ちゃんとアタシは、ア・イ・ジ・ンなんだし」
彼女は俺との関係を愛人関係と言った。
「だって、私には夫がいるもの。夫とは週に一度、セックスをするわ。でも、本当に愛しているのは剣ちゃん。だから、ア・イ・ジ・ン」
そういって、クスクス笑うのだ。
夫がいるということ以前に、俺らの関係には重要な問題があった。
けれど二人の間でそれを言うのはご法度だ。
間違っていることだと俺も知っていたけれど、それをいったら彼女との関係を失ってしまうような気がして、俺は怖かった。
どんな形でもいい、俺は彼女に愛されたかった。
「剣ちゃんはまだ子供だから、私が教えてあげる」
そう言って彼女は俺の服を脱がす。
彼女が下着で俺を出迎えるのは、俺と愛し合いたいときだ。
だから俺もそれに答える。
俺の服を脱がして行為をリードするのは彼女だけど、行為を始めるのは俺の役目だ。
リードのバトンだって、途中で俺に渡される。
「あんっ・・・・・・剣ちゃ・・・」
彼女はいつも盛大に声を出す。
隣に聞こえるぞ、と言っても、大丈夫、防音してるから、なんて本当かどうか分からないようなことを言う。
けれど行為の最中に俺の名前を呼ぶのは、俺をますます興奮させる。
「美津子、美津子ぉ・・・」
「剣ちゃん、健ちゃんっ・・・」
お互いの名前を呼ぶのは、一種のゲームみたいなものだ。
行為とは無関係の、子供のお遊び。
俺はこのとき、時々彼女のことを違う名前で呼んでしまう。
そういう時、彼女は俺を思いっきり殴る。
「剣!」
バシーンッという音が狭い寝室に響くとき、俺は慌てて謝る。
「ごめんなさいっごめんなさいっ!美津子!!!!」
だから、だから、だから、だから、だから

嫌わないで・・・・・・・・・・・

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