in陰扉door_novel_1

第三章 恋・乞い・故意_6




時々考える。
私は、誰かから愛されることがあっただろうか、と。
「愛」の定義すら分からないのに、こんなことを考えるなんて馬鹿馬鹿しい。
けれど、どうしても考えてしまう。
人は一人では生きては行けないと実感してからは。
家族が消えて、借金取りに追われて、繁華街で感じた恐怖。
確かにそこでは、皆自分のことしか考えていない、賑やかだけれど孤独な街だった。
だから孤独な今の若者は、外灯に集まる子バエのように、そこへ集まるのかもしれない。
彼らも、愛されたことがないイキモノだ。
私と同じ。
多くの人間は、まず母親から愛をもらう。
次に友達や、兄弟。
そして、異性から。
それは余りにも典型的なパターンで、だからこそ幸せだといえるだろう。
(私は、誰かから愛されたことがあっただろうか)
そう考える度、私は腕を組み歩く恋人たちや、楽しく談笑するクラスメート、はたまた道端の野良猫親子にまで、嫉妬せずにはいられなかったのだ。
そう、嫉妬である。
愛を与えられず、また貰おうと努力することもしなかった私は、ただ一人で倒れないようにするのが精一杯の虚勢だった。
けれど、そんな嫉妬心などの醜い感情は、ここ数日消えつつあると感じる。
馬鹿にしていたクラスメートのいいところを見つけられるようになった。
木下くんという友達を、失いたくないと思った。
そして今なら、なんだか両親のことを愛おしく思える気がする。
私を愛さず、私を置いていった両親。
弟は連れ去り、私だけを借金の担保のように残していった彼ら。
けれど、最後に残した「ごめんなさい」は、彼らの愛ではなかったか。
あの手紙を書いたあの瞬間でも、私のことを娘だと、愛してくれていたのではないか。
どんなに憎んでも、蔑んでも、私の体には両親の血が流れている。
私がここにいるそのこと自体、もう愛なのではないか。


そんなことを私は話した。
剣に自分の話をしたのは、初めて会ったとき以来だ。
アルコールが抜けていなくて、私は酔っ払っていたのかもしれない。
鍋にかけたビールは苦いだけで美味しくなかったのだけれど、喉は潤してくれる。
私はそれをちびちび飲みながら、泣いていた。

「愛」

愛。
私は愛をもって産まれた。
私こそが、その証拠だ。

「剣」

泣いていたのは家族のことを思い出したからではない。
いや、それも少しあるんだけど、そうじゃなくて。
両親のことを憎まず、こうやって話せること。
そして木下くんたち友達を想うこと。
それが全て、剣のお陰だということに、気付いてしまったからだ。
そして私は剣への感謝と共に、好意とはまた違う、性欲や独占欲とよく似た感情が湧き上がってくるのを感じた。

「剣」
「何?」

愛を剣で貫く、なんて少し宗教臭くて嫌だな。
でも、と私は思う。

「あ・・・・」

私は剣の唇に自分のそれを合わせた。

彼は傷が痛くて動けなかったのかは分からないけれど、抵抗しなかった。
男の人でも意外とやわらかい唇の感触を感じながら、私はただぼんやりと、こんなことを考えていた。

(ああそうか、これが、好きという気持ちなんだ)

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