in陰扉door_novel_1

第三章 恋・乞い・故意_2




我が学園の修学旅行には、数々の伝統行事がある。
それは、キャンプファイヤーなど正規のものから、チキチキ男女混同枕投げなど、生徒らが勝手に作ったものなど様々だ。
勿論私はどんな行事でも不参加を決め付けている。
もし教師陣に見つかったり、不慮の事故が起きたりしては嫌だからである。
しかし、今回は違った。


「お願い!天音ちゃん!!」
そう私に頭を下げてきたのは真っ赤な坊主頭。
木下くんだ。
「お願い、今夜の肝試し、天音ちゃんも参加してくんない?」
この通り、と彼は更に頭を下げる。
もう、地面に頭が触れてしまいそうなほどに深々と。
(以外と、体やわらかいな)
「分かったから、理由を聞かせてよ」
すると木下くんは頭と同じくらいその顔を真っ赤にしてもじもじとした。
彼が着ているシャツの髑髏がくねくねとうねる。
「あのね、そのぉ・・・・・・・
奇数じゃないと・・・男二人、余らないから・・・・・・」
奇数?
はっはぁーん
合点がいった。
肝試しは、男女ペアで行う。
もし私が参加しなかった場合、私たちのクラスの人数上、男が三人余る。
その余り物たちは残念ながら、男三人で回ることとなる。
しかし、である。
もし私が参加すれば、余る男は三人。
そしてもしその二人に木下くんとその想い人、松岡くんと一緒になれば・・・・・・
「言っとくけど、相当低い確率だよ?狙い通りになるなんて限らないし。だってペア決めはくじ引きでしょ」
「でも、俺はそれでも・・・」
彼はますます恥ずかしそうに、顔を下に向ける。
(それでも、いい、と。そんな少しの可能性でも・・・)
「木下くん!!!!」
「おわっ!なんだよ!?」
私は木下くんにがばっと抱きついた。
「私、初めて男を可愛いとか思ったよ!木下くん超可愛い!!」
「なぁ!!!!馬鹿にすんなよ!」
「馬鹿になんかしてないよ。うん、その可愛さがあれば大丈夫!きっと」
私は木下くんの耳元に近付く。
万が一誰かに聞かれると木下くんに悪いからだ。
「きっと、松岡くんもイチコロだね」
「!!!!」
彼の顔は、真っ赤を通り越してむしろオレンジ色に染まっている。
彼はフラフラとしながら自分の部屋へと消えていった。
(馬鹿だなぁ、木下くん)
その部屋には、同じ班である松岡くんもいるというのに。
松岡くんの顔を見てまた赤くなる木下くんを想像して、私は暫く笑い続けた。


で、そこまではいいのだ。
私は、友人の(男だが)恋を(相手男だが)応援する健気な女子高生でいたはず。
そして恋の協力により、木下くんと私の絆はよりいっそう強いものへと変わったはずなのだ。
なのに。
(なんで私が睨まれなくちゃいけねぇんだよぅ・・・)
ひっそりと、しかしじっとりと、木下くんが先ほどから私を睨んでくる。
その理由は明白だ。
私の隣の男のせいだ。
無駄にキラキラを飛ばすこの男。

「天音さん。僕が守るから・・・頑張ってクリアしようね」

松岡大輔。
通称松岡くん。
くじびきで決まった私の肝試しのペア。
運がよければ木下くんが一緒になりたかった、罪作りな人。
(私だって、なりたくてなったわけじゃないんだよぉ!!)
元々私は全くと言うほど意識していなかった、クラスメートだ。(私は元々、そんなに人に関心を持たない)
しかし唯一ともいえる友人の木下くんの想い人だということを知ってからは、多少は気にとめるようになった。
人を一言で形容するのは難しいが、彼の場合それは簡単だ。
(天然王子様・・・)
僕が守る、とか、素面でなかなか言える台詞じゃない。
柄にもなく私は赤面してしまう。
嬉しくて、とか女の子扱いされて、とかじゃなく、恥ずかしかったからである。
念のため。
松岡くんはおまけに顔もいい。
簡単にいうなら、『しゅっとしてさらっとした』男の子。
木下くんとは対照的。
でも、気が合うらしく同じグループでよくつるんでいたりする。
(木下くんはこんな女性的な男子が好みなのね)
木下くんを思って参加したこの肝試しだが、開始そうそう帰りたい。
元々行く気が無かった上に、友情崩壊の危機だ。
しかも今は消灯時間を過ぎた夜の零時。
寝巻きは薄いし、山が近いので寒い。
「では、男女ペアが決まったら、お墓の中に入っていって下さぁいい。一番奥の墓石に置いておいた札を取って帰って来れたらクリアでぇす」
肝試しを企画したある男子生徒が小声で言う。
民宿から少し離れた墓場を舞台としたが、大声を出せば民宿にいる教師陣に聞こえるほどの距離だ。
注意を払ってのことだろう。
「では最初はぁ〜・・・・・・」
一組目、二組目と次々と墓場へと入ってゆくペア。
その誰もが、恐怖というより異性とのイベントに興奮しているようであった。
その中には、目当ての人物とペアになれず、ガックリしている者もちらほらいたが。
しかしその筆頭である木下くんは、ガックリどころか未だに私を睨んでいた。
彼らが私たちの前を通り過ぎ墓場に入ってゆく直前
「木下。ファイト」
そう松岡くんが呟いた途端、木下くんの表情が一気に明るくなる。
「おう。お前もな、松岡」
恐ろしや、恋の力。
「俺たちもそろそろ順番だ。行こうか」
松岡くんに頷き、少し緊張しながら私たちも足を踏み出した。


困ったことになった。
なりゆきで繋いでいた松岡くんの手を離すタイミングが掴めない。
それだけじゃない。
私は本当に戸惑っていた。
(なんで? 私.......
ワクワクしてる.........)
これは恐らく私が今まで毛嫌いしていた気持ちと同等のものだ。
異性と(それも比較的見栄えのする)暗闇で、二人っきりのイベント。
(勘弁してよ...)
本心はきっとそうではない。
出発してから約5分。
「わああっ」
「大丈夫、松岡くん?」
子供騙しに見えた肝試しは以外と怖く、松岡くんは何回か悲鳴をあげていた。
今は、繁みの中に人が立っている様にみえたが、何のことはない、鏡に自分の姿が写っただけである。
さっきまで頼もしそうに見えた松岡くんは逆に守ってあげなければならない小動物のようであった。
(でもそのギャップがなかなか.......って何馬鹿なことを)
「脅かす役がいるみたいだね。 もっぱら彼氏彼女がいる奴らってとこか」
そう考えると、クラスの人数が違うので、元から木下くんが松岡くんと組むという計画は不充分だったということだ。
ドンマイ、木下くん。
「はあ。俺何やってんだろ」
松岡くんが突然呟いた。
「女の子守どころか逆に励まされて...本当情けないよ」
こんな自虐的なことを人前で言う時は、誰かに慰めて欲しいという場合が殆どだ。
しかし松岡くんからはそんな裏は感じ取れなかった。
それどころか私の胸は今まで体験したことがない位高まり、オノマトペで表すならそう。
(きゅぅん)
それからは、時々自分を叱咤したいような衝動に駆られた。
馬鹿らしい、阿呆らしいと分かってはいるものの、その反骨精神でさえ心地よかった。
オバケなんて全く怖くないのに、心臓はどきどき鳴った。
ただ松岡くんと繋いだ手が熱かった。
「はあ、やっと折り返し地点みたいだ」
大分たったように感じたが、実際には十五分とかかっていないだろう。
突然道が広がり、目の前に無数の墓石が広がった。
墓場の一番奥の墓石に、お札が何枚か置いてあった。
「あれを取ってくればいいんだよな?」
「多分」
「よしじゃあ俺」
「待って。......一緒に行こう」
松岡くんは少し驚いたような顔をしたが、ゆっくり肯いた。
繋いだ手を、再度しっかりと繋ぎ直す。
そして、足をふみだした。
一歩、二歩、三歩。
ゆっくりゆっくり。
と、そのときである。
「危ない!!!!!!」
何か、足下にぬるっとしたものが落ちていたらしい。
私は見事にそれに躓き、盛大に頭をぶつけるかに見えたが
「大丈夫?怪我ない?」
地面すれすれのところで、松岡くんが私を支えてくれたのである。
「だ、大丈夫...」
「そう、良かった」
彼は私が自分から立ち上がろうとするまで待っていてくれた。
こんなところもスマートだ。
「あの、松岡くん」
「何?」
「これ」
私が差し出したのは、昼間拾った松岡くんのキーホルダーだ。
「わあ、ありがとう!探していたんだよ」
「どういたしまして」
「これ木下から貰ったやつだからさぁ.....ホント、見つかって良かった」
そういった松岡くんの顔が余りにも嬉しそうだったので、私は何も言えなくなってしまった。
(なんだ、木下くんってば......
両思いじゃん)
明らかにそれは、同姓の男友達に向けるものではなかった。
これは、私の入り込む余地は無さそうである。

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